お客様方へ
皆様、出口の見えない不安の日々をお過ごしのことと存じます。新型ウィルスの感染が一刻も早く収束して、平穏の日々が戻ることを祈るばかりです。
そんななかとても心苦しく思いつつ、扉座が考えに考えて、辿り着いた結論をお伝え致します。
厚木市文化会館と座・高円寺にて6月に予定していました『お伽の棺』の公演を、断腸の思いで中止致します。
公演の完全中止は40年になろうとする劇団の歴史の中でも初めてのことで、今から2か月後の状況の好転を願って、公演の前日まで実現の可能性を追求したい気持ちはございます。しかし、
第一に、お客様に安心してご観劇頂ける環境が、公演日までに整うという見極めが難しいこと。
第二に、もし稽古場でキャスト、スタッフにウィルス感染者が出た場合、数週間の活動停止が必要となり、作品が仕上がらない可能性があること。(※芝居の稽古は、密集、密接、抜きに成立しません)
第三に、希望的観測で公演の準備を始めて、その後に中止となった場合、経済的リスクが膨らみ過ぎること。(※今、決断すれば、損失が最小限に留められるという判断です)
そもそもこの公演は韓国人女優を招いて創る、韓国語混じりバージョンと劇団員だけで創る、日本語バージョンの交互上演の企画でした。3月にソウルでのオーデションを行い、韓国人女優を決定する予定にしていました。そのプランは韓国での感染拡大によって、断念を余儀なくされました。その後、日本語版だけでの上演に方針転換して進めていましたが、現在の状況を見て、このような決断に至った次第です。
公演を楽しみにして下さっていたお客様には、大変申し訳なく存じます。『お伽の棺』は劇団の代表作の一つであり、今後も上演してゆくつもりです。近い将来での上演に是非、ご期待下さい。
新型ウィルス感染が広がり始めてから、我々劇場人は、お客様方に、様々な注意事項に留意して慎重にご来場ください、とご案内を続け、マスク着用や入口検温などのご協力を得ながら、劇場の扉を閉ざさぬように頑張って参りました。それがついに、自らその扉を閉めなくてはならないことが無念でなりません。
しかし今、扉を閉めるのは、次にまたその扉を開けるためです。
見知らぬ人たちが一つに集い、肩を寄せ合って過ごし、日々の暮らしをひととき忘れて、俳優たちの表情に涙し、セリフに笑う。そういう幸福の時間を取り戻すことが出来るまで、生き延びるためです。
扉座を、演劇を、人間を、愛する親愛なるお客様方に復活を誓って、お詫びに代えさせて頂きます。
皆様、どうぞお元気で。ともにこの困難を乗り越えましょう。
扉座 横内謙介