三木眞一郎×横内謙介 Special対談

三木眞一郎×横内謙介 Special対談
横内 この間「みきくらのかい」というリーディング公演で僕の作品の『いとしの儚』をやってもらって。出演者は男2人と少女1人。「儚」という絶世の美女を三木さんがやられていてビックリした。鈴次郎(男役=儚の相手役・主役)をやるんだろうと思っていたから。

三木 ははは。

横内 でも、なんて言うんだろう……戯曲がリーディングされるってこんなに幸せなことかっていうふうに思った。言葉一本勝負の世界。いい体験させてもらいました。

三木 とんでもないです。こちらこそありがとうございます。

横内 どういう思いでリーディングを企画なさったの?

三木 30年近く前にリーディングを観た時、「群読」だったんですよね。「リーディング」という言葉もあまり言われていなくて。その後、リーディングが認知されていって、規模が大きくなり、生のバンドとかオーケストラが入り、ダンスチームが入ったりして、台本持っている人達も動くようになってきた。リーディングがエンターテインメント化していくのはいいと思うんです。ただ、それは、果たしてどこまで僕の思っていたリーディングなんだろうかと思ったんです。 声優業の話になりますが、人間が生きていく上での情報って約7割が視覚から入ると言われていて、視覚以外から入る情報は残り3割。僕は声優なので、僕がアプローチできる仕事の部分て3割以下なんです。

横内 へえ~。

三木 僕らの仕事は、求められた場合にはものすごいパワーを発揮するはずなんですが、エンターテインメント性が高くなっていくことによって、パワーを発揮するコトがおろそかになるのではないかという恐れがありました。それと、極端に言えば、台本をお客様に渡してしまったら、ある意味、僕らの仕事はいらないかもしれない……目で読んでくれた方にその人にとっての理想の声がそこに生まれるかもしれない……3割以下の仕事なのに、益々厳しい仕事なんだって気が付いたんです。 声優は活字を音にする装置ではなく再現者だと僕は思っています。人の体を通して出てくる登場人物の思いを僕らは背負い、台詞を言うことによって、血と肉の通ったものを伝えること、そして書いてある言葉の力を感じてもらうことが僕らの本来の仕事。そういうところに立ち返りたい。そう思ってあのようなシンプルな形でやらせていただきました。

横内 声優さんの仕事の内容を僕はよく分かっているわけではないですけど、映画の吹き替えにしても、アニメにしても、キャラクターがあるじゃない? こういうレーサーだぞ、こういう侍だぞっていうのが決まっているでしょ。

三木 はい。

横内 でも今回の場合、絶世の美女としか書かれていない。こういうのは大変じゃないですか?

三木 逆に僕は楽です。

横内 おお。

三木 さっきの話と似るんですけど、画があると、個人個人の価値観がそこに発生するじゃないですか。何か形になった瞬間に、受取手によって(画と僕の声・台詞が)イコールじゃなくなってしまうことがあると思うんです。でもそれが形のないものであればイコールになりやすい。という意味で、イラストもなければキャラクターデザインもないというのは、僕はやりやすいですね。

横内 へええ。多くの声優さんはそうじゃないんじゃないの?

三木 そうかもしれないです。

横内 それこそ目から入ってくる情報で、それを声化するのが普段の仕事だから。

三木 『みきくらのかい』よりはい。あと、普段やっている仕事で、ゲームの台本だと、性格のところに「ややSっけがある」とか「引きこもりっぽい」とかカテゴライズされたものが書かれてくることが多くあるんです。その書かれている性格を具現化するのに、自分の中で、カテゴライズされたものを出すことを求められている。コンビニの店員はマニュアル通りの感じで言うような。でも普段の生活では、そういう店員ばかりではないですよね。例えば、僕の近所のコンビニのおばちゃんは「ありがとうございました。またお越しくださいませ」をちゃんと言えないんです。「ありあとやっしゃあ、またおしょそしすささいまっせ」って言うんです、いつも(笑)。その感じは、引き出しに入れておかなきゃいけないものだと思うんです。

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横内 我々の演劇用語で言うと、お客さんに想像力を持って見てもらいましょうっていう……逃げでもあるんだけどね(笑) すごい太ったロミオと年取ったジュリエットが演じてる場合、ホントは14才の処女なんだけど、想像して見てくださいっていうのが演劇だったり(笑)。何もないところから想像するところとか、三木さんは演劇にすごいシンパシーを感じてるんだなとこの間のリーディングを見て感じた。そもそも芝居への興味はおありになったんですか? 声優を目指してたんでしょ、子どもの時とか?

三木 いや目指していないです。声優になれると思っていたので。

横内 え? 何それ? どういう意味?

三木 僕の将来は声優だって思ってたんで。

横内 いつから?

三木 小学生くらいですね。だからなりたいと思ったことはなくて、なれる……も思ってないですね、そういうもんだと思っていたので。

横内 何を根拠に?

三木 いや、わからないです。

横内 何を見てそう思ったの?

三木 第1次声優ブームの時……『宇宙戦艦ヤマト』とか流行った時、その頃から声優の存在を知っていて、いろいろアニメを見ていくなかでですかね。それと、小学校の頃から、なんでかお芝居見るのが好きだったんです。以前、劇場中継とか結構な頻度であったじゃないですか。僕が高校くらいの時だったんですけど。その頃に唐(十郎)さんや3○○とかを、テレビで結構見てたりして。芝居にはどういうわけかすごい興味があったんですよ。

横内 まあ声優になることは決まっていたからね。芝居も気になっていたんだ。

三木 めちゃめちゃ気になってました。

横内 その頃、声優という仕事と肉体を使う俳優という仕事は別のものと思っていたの? それとも同じようなものと思っていたの?

三木 あまり区別はなかったです。ただ、人前に出るのが苦手だったので、それもあって声優でというのがあったかもしれないですね。僕が好きだったバイク漫画がアニメになるっていう時に、素人の読者声優を募集していたんです。で、僕、バイク乗りでバイクレーサーを目指してたのもあって応募したんですけど、通っちゃって。受かったの2人だったかな、台詞の多い方をもらって……できんじゃんみたいな(笑)

横内 へええ。その話は声優界では有名な話?

三木 『みきくらのかい』よりいや、どうでしょう(笑)。自分が声優になると思っていた話は、後輩に聞かれたらしてますけど。ただ、なれると思っていた根拠は誰にもわかってもらえないですね。中学の頃ですけど、映画『銀河鉄道999』のムック本を買ってくると台本が入ってたんです。それを使って友達と台詞を言って録音してたりとか。

横内 そんなことやってたんだ。

三木 はい。あと、友達と会話してる時に、黙ってカセットをまわして録音したり。後で聞くと「普段の会話ってこんな感じで喋ってるんだ」と。

横内 目覚めた時から声優だったんだ。

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横内 第1次声優ブームの人達ってどこかの劇団の人達なんだよね。テアトルエコーとかさ。

三木 そうですね。

横内 もともと俳優だったのが、駆り出されて吹き替えやっているうちにアニメが生まれてきてその人達に頼むみたいなね。だからそういう人達が芝居が好きなのは当然というかわかる。その後の人達は、業界が出来上がってるから、演劇はあまり関係なくなった。なおかつその世界で生きてこれたんだから、演劇なんて面倒くさいものやらなくていい。なのに、僕が貴方と初めてお会いしたのは、貴方が舞台に立っていた時。こっちの業界の方に来てくれたからこそ、今につながる出会いがあった。最近だもんね、アニメも舞台にしようという風潮が生まれたのは。それまでは別の世界として存在していたものなので、よくぞ舞台に出ててくれたなと思うんですけど。

三木 舞台はやっぱり必要で……

横内 誰にとって必要なの? 声優にとっても?

三木 声優にとっても必要だと思うんです。ただ、舞台やってないけど素晴らしくうまい人もいます。ただそれは声優として天才だからだと思うんです。話し戻しますけど、声優も台詞を言うときに空間を共有しなきゃいけないじゃないですか。

横内 難しいけど大事なところだね。

三木 三木眞一郎×横内謙介 Special対談例えば台本に「会議室」と書いてあった場合。会議室としか書いていない設定で何人かで会話を始める時、会議室ってどの大きさだろうかっていうの、ちゃんと共有できてないとおかしなことになる。広さによって台詞を飛ばす距離が変わってくるじゃないですか。舞台をやると、その部分早いですよね絶対に。テーブルがこれぐらいで、椅子がこうあってってやると距離感は自然に生まれるじゃないですか。それを僕らはマイク前で体を動かさず想像の中でお互いが共有して、その距離感を出さないといけない。「思い込み」と作品の中でのリアルが違うということを若い人に分かってもらいたいですね。思い込みは自分が思っただけで、その作品の中では浮いている可能性もあるし、空間を共有できなかったら、登場人物の流れも共有できなくなってくる。そういうことは舞台をやると、嫌でもやらなきゃならなくなる、実体験できる。そして声の仕事で分からなかった時、もしかしたら、「あの舞台でやったあの時のあの感じかも」ってなるかもしれない。舞台と声優の仕事は切り離していいものではないと思います。


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横内 こないだのリーディングでビックリしたのは、こんなに表情豊かにやるものかと思ったのよ。リーディングで泣きながらやってた。声だから涙はなくてもいいのに(笑)

三木 涙を出している風(ふう)では人に伝わらないんですよ。

横内 おお。大事なところだぞ若者達(笑)

三木 いやホントに大事なことだと思います(笑) こっちの気持ちが動いていないものは、よっぽどうまい人じゃないと伝わらない。うまい人はそこを埋められる何かがあるから上にいるんです。カッコつけていても何も伝わらないんです。僕らは役がどう生きているか知りたいんです。見たいのは、君の中から出てくる登場人物の何かがみたい。服を脱がないといけないんです。

横内 服を脱がない……当然じゃない、マイクの前で喋ってんだから(笑) 扉座は意味もなく脱ぐって怒られるんですけど(笑)

三木 (笑)着こんじゃう若者が多いんです。その人物がいかに立体的に作品の中でリアリティを持つかが大事。だから、うまいなって思う人は、心が動いているのが伝わってくる。自分の心が動かないのに人の心を動かせるわけないって思います。

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横内 三木さんは演じたいんでしょ。僕らの言葉で言うとそういうことなのかな?

三木 そうですねえ。マイク前で「キャッチボール」したい。マイク前でも自分の台詞の言い方しか考えてない人もいるので。

横内 なるほど。

三木 あと、最近、やる前に台詞に対して意見を言う人がいます。僕らは台本の台詞云々の前に、違和感があっても1回やってみせないとダメだと思うんです。やってみせたうえでダメならご相談しよう。僕らの力でうまい具合に聞かせるのも僕ら声優の腕。だってその役はホントにそう喋ってるかもしれないから。いただいたものに対して真摯に向かっていく姿勢っていうのかな。だって全部借り物じゃないですか。スタジオも借り物、台本も借り物、その借り物を借りられる権利を得たんです。そもそも人の人生借りる仕事だから、やっぱり感謝しないといけないんじゃないか。

横内 さっきの話で行くとさ、我々と近いなと思ったのは、もっとコミュニケーションをとろうよ、演技するときにちゃんと俺の台詞聞いてくれってことでしょ?

三木 そうですね。

横内 自分が次どう言うかの準備で始まるのではなく、俺が「愛してる」って言うから、それに対して応えてくれよって。聞くっていうことをちゃんとしたうえでの台詞だろって言うことに近いのかな。

三木 ホントにそうです。声優って喋るのが仕事だと思われるんですけど、実は聞く力の方がよっぽど大事だと思うんですよね。相手が何を言わんとしているのかとか、空気を読むとか察する力がないと。

三木眞一郎×横内謙介 Special対談横内 お芝居も台詞を覚えて言うものだと。台詞を喋ることが演技なんだと。もちろんもの言う術っていうのが演技教則本のタイトルになるくらい、相手役に伝えながら観客に伝える特殊な技術というのがすごく大事。だけど、最近20年くらいは、若手の演技指導でも、耳を使いなさい、相手の台詞を聞けと言ってる。聞いているフリをするのではなくてホントに聞けと。「お前なんか大嫌いだ」という言葉がちゃんと聞こえてきて、それが胸にざらつく感じとか……そういうものを生むためにも聞かなきゃいけないよね。じゃないと、次に「ふざけんな!」って言えないわけじゃない。だけど「ふざけんな!」の準備で入ると、それは「ふざけんな!」にはならないんだよね。

三木 ならないですね。

横内 ね。実は結構な主役でも舞台上にいる時、聞いている時間が長いのよ。聞くって言う芝居、これも芝居。耳が生きてる。声優の仕事も舞台の仕事も、基本はドラマっていうところとか演じるというところとか、そんなに変わらないっていうことかな?

三木 変わらないと思います。

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三木 それと、シーンで出番があったら、舞台では嫌でも舞台上にいなきゃいけないですよね。でも声優の場合は、マイク前以外はいないんですよ。

横内 そうか。絵にはいても台詞がない限りいないんだ……

三木 マイク前にはいないんです。

横内 なるほど。

三木 だからさっき言った空間の共有がきれてしまうことがあるんです。

横内 わかる。なるほど。

三木 だから、具合悪くなる芝居をする時に、急に具合悪くなったりするわけですよ。

横内 はいはいはい。

三木 本来はそうじゃないはずじゃないですか。

横内 ずっとその部屋にいて、そうなるんだもんね。

三木 みたいなこともあるんです。出番だけで芝居しようとするから繋がらなくなっていくっていうこともあって。さっき言った空間を共有するということに加えて時間も共有しなきゃいけないって言うことが、読むことだけに集中すると前後が無くなる。気をつけないと陥りがちなところなんです。

横内 その感覚を養うためには演劇がよいと。特効薬は演劇ですと(笑)

三木 そうですね(笑) 結局、皆自分に引き寄せるじゃないですか。自分の中のものでしかできないから。でも舞台演技の場合だとそれだと許されないこともある。例えば、その歩き方じゃないんだよ、と演出家から言われたりする。固まってしまうけどやらなきゃいけない。何かを探す努力が声優よりも多いのかもしれないですね。探すことで自分の可能性も見つかると思うし。ただ舞台やっている人が声優をやるとうまいかというと、そうでない場合もあるので、特性というかどっちを向いているかだと思うんですけどね。そうであるにしろ、舞台のうえでの経験は120%無駄にはならないと思います。

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横内 芝居観ろよ、だとか、声優やるにしてもスタイルだけ追い求めてもダメだぞって。演じることについてもっと基本を見つめ直した方がいいよって、折々に触れて言ってくれるじゃない。それは我々にとってもありがたいことだって思うんだよね。

三木 そこに嘘は全くないので。僕も鍛えられていますし。自分の肉体って、自分の想像より動かないんです。

横内 自分をさらすのがあまり好きじゃない、それでいて舞台に出る。その後、随分おやりになっているけど、恐いのによくやるなと感心するんだけど、何に引き寄せられてそんな恐いところに行ってるの? いまだに慣れないでしょ?

三木 全然慣れないですよ。

横内 緊張もするでしょ?

三木 はい。出番の前は、そででスタッフとずっとハグしてますもん。

横内 ははは。そんな辛いことを、これだけ名前も売れてて人気もある人がさ、もっと楽にやる方法はいくらでもあるでしょ。

三木眞一郎×横内謙介 Special対談三木 好きだからなんですよ。好きなことに対してびびるくらいが、俺みたいな小心者には調度いい。失礼が無くていいかなって。恐いから注意するじゃないですか。この間お越しいただいたリーディングも、やっぱりなんだかんだ言って相当恐かったです。でも立ってしまったらやるしかない。その結果喜んでくださる方達がいらっしゃる。公演なので、当然お金はいただきますけど。そこかな。恐くなくなったら、多分、お芝居に興味が無くなった時のような気がします。できるって自信があったら恐くなくなるかもしれないじゃないですか。人前で自分の肉体さらして、そんなに自信もてないですもん、人の人生借りるのに。

横内 達成感とかエクスタシーとか感じてるの? やり遂げた後とか。当然、なきゃ続かないけどさ。何か脳の中に変なエキスが出てるからまたやっちゃってんでしょ?

三木 それはありますね。終わったら、あ、やれたねって思うんですよ。他の仕事もやりつつ舞台に臨まなきゃいけなかったりするので、やれたじゃんて思うんです。で、これできたからあと何が来てもたいてい大丈夫だって思うんですけど、何来てもたいていグッタリします(笑)

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横内 質問が変わるんですが、ホントにあれやこれやで長いお付き合いになるんですけど、劇団公演を観続けてくださって、劇団員とも親しくお付き合いいただいて、僕の台本も使ってくれたりしてるんですが、扉座ってどうなんですかね? 何を気に入ってくれてお付き合いしてくれてるの?

三木 う~ん。まず、横内さんの台本が好きなんですよね。あとパワーかな。舞台の上から感じるパワー。それから扉座の舞台は、自分が客であることを意識しなくていい舞台なんです。僕の感想ですよ、生意気なんですけど。『最後の伝令~』でおじさん3人が会話しているシーンなんかは、僕の肉体が無くて、キャストがいる空間に空気になって見ているみたいな感覚。ドキュメンタリーを見ているというか。舞台にいる人達の生活をリアルに覗き見ているような感じで、とても素敵だなと思いました。何を見ていたんだろうって……いい意味でですけど、ホントに夢を見ていたんではないだろうかって。

横内 僕の芝居も色々あるなかで「みきくらのかい」で『いとしの儚』を選んでくれたのはどういう理由なの?

三木 僕がやりたかった朗読劇を見てもらうのに分かりやすいかもしれないということ、そして、横内さんが紡いだ日本語の素敵な部分だったり、情緒感みたいなものをやりたかったんです。

横内 分かりやすいかもしれないけど、恋の話を男2人で演じて……絶世の美女の「儚」、それを三木さんがやるんだけど、結果違和感がなくて。ちゃんと「儚」がいたように感じられた。

三木 ありがとうございます。うれしいです。

横内 しかも別に女形の声を出したわけじゃないもんね。

三木 そうですね。

横内 演じるっていうキーワードでやってるわけだよね。

三木 そうです。地声の範囲は超えていないです。

横内 それはプランとして? 女に化けるということは考えなかったんだ。

三木 全然考えてないです。声で何とかっていうことは考えていなかったです。気持ちが入った時に出てくるものがその役に対して正しいものだと信じてるんです。それで演出家に違うよって言われたら変える。それはアニメでも外画でもそうなんですけど、その役を理解しようと思って、納得して出たもの……声から先に考えることは全くないですね。

横内 あ~そうなんだ。

三木 はい。

横内 声優の醍醐味じゃない、特徴ある声出すの。

三木眞一郎×横内謙介 Special対談三木 例えば、新しい消しゴムがこれくらいの大きさで、使い古された消しゴムがこれぐらいでとあった時に、サイズ的にはそうだけど、圧倒的に年取っているのは使い込まれた消しゴムじゃないですか。そうすると工場から出てきた消しゴムは生まれたての赤ん坊のみたいな声かもしれないとか、そういうところを探っていくと、大きさとか見た目からイメージするもので声を出してしまうのは、ちょっと違うかもなって。

横内 なるほど。

三木 よぼよぼのお爺さんかもしれないじゃないですか。

横内 ちゃんとドラマを見ろと。形に宿る真の姿を見定めよってことだね。

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横内 演劇だと声から作る、姿から作るっていうところもあるんですけど、それは手がかりがない場合に、まず姿作ってみようかとかね。でも、できれば役者が素読みで読んで、読んでいるところからドラマが立ち上がってきて、それで役を作っていってもらいたいと思う。丁寧な芝居ってそうだよね。真逆にあるのは歌舞伎。気持ち関係なく、まずカタを徹底的に覚えなさいって。それは、長年にわたって、この形がそう見える保証があるから、これを絶対覚えなさいと。では心が無くていいのかというとそうではなくて、形ができた上でその器に心を入れなさいと。自然に心が動いてくるから。逆なんだよね。それはホントに見事。中途半端に形から入ったって、その形が洗練されてなければ意味がない。僕らは不用意に真似てはいけないなって。子どもの時から嫌ってほど修行をして初めてカタはできていく。

三木 車のレースでも、野球でもサッカーでも、僕らが目にするのはトップの人達じゃないですか。スマートに見えるんですよね。でもその下の2軍であったり3軍であったりは、バタバタするからスマートに見えないじゃないですか。そこも映してあげると分かりやすいんですけどね。どれだけすごい人達にスポットライトが当たっているかって。スマート=簡単って誤解されがちなんです。実際にやってみて、苦労すると辞めちゃうっていう……その先にあるんですけどね。

横内 確かにその通りですよ。だから修行しろと(笑)

三木 身の回りにあるもの全てが教材です。例えば、電車に乗ると中吊り広告があるじゃないですか。とてもいい教材なんです、あれ。僕は、広告を脳内音読して、次の駅に着くまでにラジオCM作ったりします。中吊り広告って演出されているんですよ、既に。伝えたい記事が大きいから。ここは大きく伝えて、小さいものを何個か入れて、次の駅までどれくらいかなあ、よしじゃあやってみようと。

横内 今も?

三木眞一郎×横内謙介 Special対談三木 今もやります。週刊誌だったら1週間に1回、教材がタダで入れ替わるんですよ。素晴らしいじゃないですか、電車の中って。

横内 独り言を言ってるの、電車の中で?

三木 脳内音読です。黙読すると、目はいっぱい情報が入るので、いけちゃうんです。ではなくてあえて文字を追っかける。脳内で音読していくと、いろんなことが分かってくる。この単語、目ではスッと入ってくるけど音読すると結構言いにくいなとか。

横内 すごい。たいしたもんだね、今でもそれをやっているっていうのは。

三木 それしかないんですよ、僕は。

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横内 最後に何か若者に向けて言っておきたいことってありますか?

三木眞一郎×横内謙介 Special対談三木 10回イベントに行くお金があるんだったら、1,2回扉座を観に来なさい。イベントが全ていいイベントとは限らないし、お芝居が全ていいお芝居かと言われると分からないです。ただ、扉座さんを観に来て外れることはないと思います。

横内 ありがとうございます。

三木 イベントは、お客さんは受け身でいい。そのために演者はやっているので。お芝居は、能動的にいないと楽しめないので。頭も使うし、その分、感動もある。

横内 演劇は座って観ているから、一見受け身に見えるけど、確かにおっしゃる通り、中味はそうじゃないからね。目覚めるものなので演劇って。これね、誰かの名言なの。映画は眠りに近い、感覚的にね。演劇は観ていて目覚めていく感覚なんだと。確かにそういう部分あるかなという気がするんだよね。働きかける部分。やっぱり言葉を聞いてもらわなければいけないからね。今日はいい話をありがとうございました。

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横内 若者達が三木さんを見習って演劇に興味を持ってくれたらうれしいな。扉座研究所は扉座に入るためだけでなくて、ミュージカル目指すとか映像目指すとか、もちろん声優を第1に考えてる人にも、研究所の1年2年が体験になって更なるその人の人生の糧になればいいって思ってやっているところが多々ある。だから今声優目指してるんだけけど、まだ自分に何かが足りないとか、もうちょっと試してみたいとか思っている人は是非来て欲しい。三木眞一郎に影響されて来てくれたらなって思ってます。

(取材・文◎田中信也)


《三木眞一郎 みき しんいちろう》
1968年3月18日生まれ 東京都出身
所属◎81プロデュース

◆主な出演作
『ポケットモンスターシリーズ』 コジロウ役/
『機動戦士ガンダム00』 ロックオン・ストラトス役/
『鋼の錬金術師~FULLMETAL ALCHEMIST~』 ロイ・マスタング役/
『リベンジ』 ノーラン・ロス役/
『エレメンタリー ホームズ&ワトソン in NY』 シャーロック・ホームズ役/
他多数

◆舞台
音楽劇『オリビアを聴きながら』(作・演出:横内謙介)
『乱童 RAN-DOH~Voice in city~』(企画・演出:横内謙介/作:横内謙介・上原英司)
に出演