横内謙介インタビューフルver.
「やっぱり、芝居は楽しくやらなきゃ、輝かないよ」
◆ 扉座・扉座研究所のモットー
今はそれぞれの良さを認め合って、多様性に可能性を見いだそうという時代です。
一つの型に押し込めたり、一つのやり方を強制するのではなく、それぞれの違いを面白がり、魅力を見つけていくやり方をしています。
これは研究所でも徹底しています。
厳しく言わなければいけない時には厳しく指導するけれども、暴力は絶対になく、どなり声も稽古場では上がらないようにしています。
その方法が芝居を良くすると信じているし、それでいいという確信もある。
やっぱり、芝居は楽しくやらなきゃ、輝かないよ。
そもそも、扉座は、文化振興のための公的なお金をもらっていて、これは税金。
組織としていい加減だともらう資格がありません。
扉座は、日本を代表する劇団が加盟し、演劇界をサポート、発展のために尽力している日本劇団協議会という組織に所属、その協議会の理事を私は務めています。
なので、今後の演劇の希望については、とても敏感な組織であると思ってます。
もしかしたら、劇団は怖いところだと思っている人もいるかもしれないけど、決してそんなことはないので。
特に、研究所は、伸び伸びやってもらう場所でありたいと思ってます。
他人と違うことは尊く、その良さを伸ばしていく場所、そして、コンプライアンスを守り、楽しく学ぶ、それが扉座の研究所です。
◆どんな俳優(アーティスト)を育てたいか
劇団なので、劇団の公演活動は、当然一番大事。
ただ、俳優として、劇団に留まってほしいという思いで劇団をやってません。
これは、劇団設立の時からの信念。
映画、テレビなどの映像作品、アニメーションの声、ゲームの声、ミュージカル、歌舞伎……あらゆるジャンルで活躍できる人材が集まっているのが扉座。
そうなりたいと思ってます。
実際、45年の歴史のなかで、様々な才能がここで開花しているという自負があります。
例えば、六角精児は、テレビの俳優としても第一人者であり、更に音楽活動もしていて、ラジオのDJもやっている。
若いころにTokyofmの人気番組「ミリオンナイツ」にDJとして抜擢され、現在、テレビドラマ「相棒」にレギュラー出演している山中崇史もいる。
研究所出身では、高橋一生も一時劇団にいました。
彼らは、映像を中心に活躍しているけれど、演技の基本は舞台ということで、基礎を学ぶために、研究所、劇団、および劇団活動に参加していました。
旗揚げして間もなく劇団に入った茅野イサムは、俳優をやりながら演出をやっているうちに「ミュージカル刀剣乱舞」等、2.5次元舞台の演出家として、今や押しも押されぬ存在となっています。
◆将来につながる現場
私も作家、演出家として外部の仕事を数多くやっています。
メジャーな舞台、歌舞伎、アイドルの作品、テーマパーク「KAWAII KABUKI~ハローキティ一座の桃太郎」等など。
それも劇団があってのこと。
劇団以外のところで仕事をして、その成果や経験を劇団にフィードバックしています。
当然、我々が関わっている大きな舞台や、時として、テレビドラマ、映画に、劇団員、場合によっては研究生もキャスティングされます。
それは、芝居ができる、基礎ができているという信頼があるから。
扉座の出身者が演出、主演をしている場に呼ばれるチャンスがここにはあります。
そういう意味では、今、いろんな連鎖が起こっていて、理想の状態になってる。
入ったばかりの若手でも、チャンスがあるならどんどん外部に売り込んでいきたい。
現に、研究所を出てすぐ「ミュージカル刀剣乱舞」や、スーパー歌舞伎に出してもらってる人たちがいます。
また研究所を出て、私がやってる「KAWAII KABUKI」に出演し、今、レギュラーになっている人もいます。
プロへの道が開かれている場所となっています。
研究所は、卒業公演もかなりしっかりと創っています。
劇団員が手伝い、私も含め、講師たちも本格的な劇団公演と同じぐらい情熱を注いでいます。
この公演はとても評判が良く、関係者だけではなく、一般のお客さんたちや、芸能関係の事務所の方とか、プロデューサー、ディレクター、演出家、そういう方たちも見に来てくれていて、ここからピックアップをされて、俳優としての仕事が開けていったという卒業生たちもいます。
また、現在、若者の劇団を作ることを決めています。
今年の4月に発表して、26年から27年にかけて実現させるための計画を立てている状態です。
扉座はもう若手を取らないという噂が流れたみたいなんだけど、そうではなくて、若者へのチャンスを作るために、あえて若者中心のグループを作り、若い時にしかできないような芝居をやれる場づくりをしてる。
だから、むしろ、若い才能と出会いたいと思っているし、思いもよらない才能がここから生まれてもらいたいと思っています。
経験を重ねて年をとってきたからこそ、その経験をしっかりと伝え、受け継いでくれる人たちをしっかり育てたい。
もちろん、これから研究所に入る人たちの中からも、 新しい若者の劇団に参加してほしいと思っています。
若者の劇団から本公演に抜擢され、出演する機会はもちろんあります。
そもそも研究生でいることで本公演出演のチャンスが生じる珍しい劇団だからね。
そういう意味で、いっぱいチャンスがあるんです。
◆扉座研究所の教育
改めて扉座の講師陣をみると、手前みそだけど、立派な講師たちが集まっている。
各方面で講師として経験を積んで信頼されている人が多い。
有馬自由は、ワタナベエンターテインメントカレッジの講師をして、若手の育成に励んでいるし、鈴木里沙もケッケコーポレーションや、昭和音大のミュージカル科の指導をしている。教育部の田中信也も日本工学院専門学校の声優俳優科や、声優事務所の養成所で講師をやっている。
他にも専門学校や声優養成所等で講師をやってきた人達が寄ってたかって育成するので、レベルが低いはずがないなと。
そして、同じ劇団員ではあるけれども、それぞれ経験も違うし、様々な考え方を持っているから、いろんな形での学びができる。
扉座というフィールドの中で、いろんなスタイル、いろんなテイストを味わえる。
そういう意味で、小さく型にはまった俳優ではなく、劇団外の場所でも活躍できるような俳優の下地を作っていると言えると思います。
私は歌舞伎に関わっていて、スーパー歌舞伎や、歌舞伎座の仕事もやっている。
今、私が歌舞伎で演出するものは、古典でない新作で、歌舞伎俳優ではない扉座の俳優、それも研究所卒業直後くらいの若手も含めて、歌舞伎座の舞台に立っています。
普通の俳優では学ぶことのできない歌舞伎の面白さや技術を否応なく学ぶことができている。
歌舞伎俳優ではないのにこんな体験ができるのは、扉座研究生、研究所卒業生、扉座の特権なんじゃないかな。
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取材・文◎田中信也





